アリストテレスの自然学(Physica、物理学)とガリレオの思考実験

 机の上に本を置き、横から押してみる。加える力を強くしていくと、本は机の上を滑り出す。力を加えるのをやめると、本は止まってしまいます。このことから、物体は力を加えれば動き、力を加えなければ止まることがわかります。さて、力と運動を区別することが重要です。運動は、物体が動くということだけでなく静止しているということも含んでいます。そして、力=運動ではありません。力は加える力であって、動くとか止まるというのが運動です。このような「力による運動」という考え方を最初に思いついたのがアリストテレスです。この考え方は非常に長い間支持されてきました。アリストテレスの自然学の考え方をまとめると次のようなものになります。

f:id:huukyou:20160223055354j:plain

 

1.すべての運動には原因がある。この原因は力である。力がなければ物体は止まる。

2.力には2種類ある。一つは押したり引いたりする力で、接触することによって起こる。もう一つは、物体に内在する力で、坂を転がり落ちていくときなどに必要な力である。

3.重力とは物体が落ちようとする性質によっておこる。重い物体の方がよりその性質が強くなる。つまり、重力は物体に内在する力である。

4.重い物体は、軽い物体よりも速く落ちる。速さは重い物体の方が大きくなる。

 

 たとえば、物体は放り投げると、地面に落ちるまで運動し続けますが、これはどうやって説明するのでしょうか?アリストテレスによると、空気中に投げた石の後方には空気の渦ができ、これが石を押し続け、運動が持続します。その頃でもこの考えは変だと考えた人がいたはずですが…

f:id:huukyou:20160223055422j:plain

 アリストテレスの考え方に果敢に反旗を翻したのがガリレオです。机の上で、パチンコの玉を転がしてみましょう。すると、ほぼ一定のスピードで転がっていきます。ガリレオはこれを、アリストテレスのように空気が押していると考えるのではなく、力が加えられなければ一定のスピードで転がり続けると考えました。これは発想の転換でした。では、本の場合にはなぜ止まるのでしょうか?どんなに平らに見える表面もよく見ればごつごつしています。そして、本と机の表面がざらついているために、運動を止めようとする力が働くのです。実際、机の上に手のひらをあてて左右に手を動かしてみると、机から動かさないようにする力を受けているのがわかります。これが「摩擦力」です。物体が重いと、接する面が増加し、摩擦力が強くなります。本の表面の分子と机の表面の分子が引き合う力が摩擦力となります。こすれ合う力を生み出すのは分子間引力があるためです。

 上の4が間違っていることを示すためにピサの斜塔を使って実験したのもガリレオでした。ガリレオは、「物体の落下速度は その物体の重さよらず一定である」ということを証明するために、ピサの斜塔から大小二つの鉛の玉を同時に落とし大小両方の玉が同時に地面に落下することを確認しました。

 

<ガリレオの思考実験>

f:id:huukyou:20160223055524j:plain

 ガリレオはピサの斜塔で落体の実験をするだけでなく、アリストテレスの落体についての法則は誤っていることを思考実験で示していました。それを見てみましょう。

 

アリストテレスの法則:重い物体はそれより軽い物体と比べ、より速く落下する。

 

さて、ガリレオは上の法則が誤りであることを帰謬法で示しました。法則が正しいとすると矛盾が出てくる、したがって、法則は誤りというのがガリレオの論法でした。

 「重い物体Mと軽い物体mがあり、アリストテレスが信じていたように、重い物体ほど速く地上に落下すると仮定しよう。最初の仮定から、Mmより速く落下する。さて、m M が一緒になった物体を考え、それをm + M だとしてみよう。すると、何が起こるだろうか。m + MMより重く、それゆえ、Mより速く落下しなければならない。だが、一緒になった物体m + Mの中で、Mmはそれが一緒になる前と同じ速さで落下するだろう。だから、遅いmは速いMに対してブレーキのように働き、m + M Mだけの落下の場合よりゆっくり落下するだろう。それゆえ、m + MMだけの落下の場合より、速く、かつ遅く落下することになり、これは矛盾である。したがって、アリストテレスの法則は誤りである。」

 このガリレオの結論を別の思考実験で考え直して、もう少し強い結論を導き出してみましょう。まず、同じ重さの立方体Mを二つ用意し、この二つをピサの斜塔から同時に落とすとします。同じ重さの二つは同時に地面に落ちます。次に二つを縦に重ねて間をおいて落とすことを考えます。二つは同じ速度で落ちていきますから、二つの落下速度は変わりません。では、その間隔をどんどん短くしていったらどうでしょう?間隔が0、つまり縦に重なったまま落としたらどうでしょう?間隔が0になった途端に落下速度が変わる、とは考えられません。重さは別々の時の2倍になっています。それでも落下速度は変わりません。同じように、3個、4個、5個…と立体の数を増やしても思考実験ができます。あるいは、逆に1個の立方体を2つ、3つ…に分割する実験もしてみることも考えられます。重さを何倍にしても、何分割してもそれぞれの落下速度が同じなら、落下速度に違いはでません。よって、「物体の落下速度は物体の重さにはよらない」ということになります。

 

 二つの異なる思考実験をして二つの異なる結論を得ましたが、それらはどのように異なる結論なのでしょうか?そして、さらに重要なことですが、思考実験とピサの斜塔での落体の実験との違いは何でしょうか?