量子物語:フォン・ノイマンの定式化

 フォン・ノイマン(John von Neumann, 1903-1957)が26歳の時に数学的に表現した量子力学の仮定を考えてみましょう。まず一般に受け入れられている仮定を列挙し、最後にもっとも疑義のある仮定を述べます。

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量子力学の中心的な四つの仮定>
 量子力学は次のような問いに答えようとする仮定と、不確定性原理からなっています。

(1) 量子力学的なシステム(=ミクロな対象)の状態はどのように記述されるか。
(2) 物理的なオブザーバブル(観測できる物理量)はどのように表現されるか。
(3) 量子力学的なシステムの測定結果は何か。
(4) 量子力学的なシステムの状態はどのように時間発展するか。

これら四つの基本的な問いへの解答が量子力学の仮定として要請されています。

(1)物理的状態:システムの状態はある時刻にそのシステムが何をしているかを表現している。
・ どんな量子的な物理システムも特定のヒルベルト空間によって表現される。システムの可能な物理的状態は表現されるヒルベルト空間の(正規化された)ベクトルに対応している。
・ システムの状態は対応するベクトルによって完全に表現される。すべてのベクトルはある状態に対応し、すべての状態はあるベクトルに対応している。状態の重ね合わせ(superposition)はまたそのシステムの状態である。つまり、ベクトルのどんな線形結合もベクトルであり、それはシステムのある状態を表現している。
(2)測定可能な性質:オブザーバブル、つまり、測定によって見出すことができるシステムの性質はヒルベルト空間に作用する線形のエルミート作用素(あるいは演算子)によって表現される。
(3)実験との結びつき:実験をすると、異なる確率をもつ結果が期待される。システムがあるベクトルで表現される状態にあり、測定を表現するのに使う作用素の固有状態であるなら、私たちは確実に測定結果を予測できる。
(4)力学:力学はシステムの状態がどのように時間的に変化するかを記述する。システムの状態を表現するベクトルと他のシステムとどのように相互作用しているかについての情報が与えられると、その力学によってシステムの未来の状態を計算できる。システムの時間発展はシュレーディンガー方程式にしたがっており、その意味で連続的、因果的、そして決定論的である。つまり、状態と相互作用が与えられると、後の時刻にシステムが発展する状態はただ一つだけ存在し、その状態にシステムは因果的、連続的に到達する。

フォン・ノイマンの射影(あるいは崩壊)仮定>
 既述の量子力学の仮定はシステムの状態が時間的にどのように変化するかについてのすべてを述べているわけではありません。その理由は、測定することはシステムの状態を非連続的に変化させるからです。つまり、測定前のシステムが固有状態の重ね合わせにあるなら、測定によってシステムの状態が崩壊し、それゆえ、実際には最初の重ね合わせにあった固有状態のただ一つだけが見出されるからです。確かに、測定による状態のこのような変化は不連続だけでなく、非決定論的でもあります。残念なことにこの種の不連続で、確率的な振舞いはシュレーディンガー方程式によっては記述できません。そこで、フォン・ノイマン量子力学の形式にさらに仮定を加えました。シュレーディンガー方程式は測定がなされていない場合だけ使うことができ、測定が実際になされた場合は次の新たな仮定に従います。

(5)崩壊:測定の効果は測定されるシステムの状態を変化させることである。この変化が通常、崩壊(collapse)と呼ばれる。というのも、状態は非連続的に測定されるオブザーバブルを表現する作用素の固有状態に変化するからである。さらに、量子力学の理論形式に確率(偶然)が入り込むのはこの崩壊だけである。つまり、崩壊はシステムの状態ベクトルが率的に時間発展できる唯一のメカニズムである。