崩壊(collapse)理論

 フォン・ノイマンは、測定の間に起こることがシュレーディンガー方程式によって記述できるという考えは誤っていることを受け入れるべきだと決断し、次のような二種類の力学的な時間発展が量子力学にあることを主張する。

I. 測定されない場合、すべての物理システムの状態はシュレーディンガー方程式にしたがって時間発展する、つまり、システムの時間発展(=時間的変化)は連続的で、因果的である。
II. 測定される場合、測定されるシステムの状態は「崩壊仮説」にしたがって時間発展する、つまり、システムの時間発展は不連続で、因果的ではない。

 だが、そもそも「測定」とは何なのか。この問いに答えられないと、上のIとIIの間の区別をすることができない。というのも、いずれが適用されるかを決定するものは測定がなされるか否かであるからである。特に、「測定」という語は日常言語では正確な意味をもっていないし、フォン・ノイマンもその意味を定めようとはしなかった。ウィグナーはフォン・ノイマンの考えを明確にしようとして、物理システムには二つの基本的に異なるタイプがあると示唆した。

i. 純粋な物理システム— 観測者を含まないシステム— いつもシュレーディンガー方程式にしたがって時間発展する。
ii. 意識的なシステム— 観測者を含むシステム— 崩壊の仮定にしたがって時間発展する。

 測定は有限の操作でなければならず、観測行為という経験によってなされなければならない。測定結果に至る過程はタイプiのシステムを含むことができない。というのも、不連続で、因果的でない行為によって測定がなされなければならないからである。つまり、観測はタイプiiのシステムを含む行為でなければならない。
 このことは次のような二つの問いを引き起こす。どのように、なぜ観測行為が生じるのか。ウィグナーは二つの解答を与えている。


(1) 重ね合わせの崩壊の結果として観測行為が生じる。
(2) 観測行為は意識的な観測者の心によって生じる。なぜなら、量子力学がすべての純粋に物理的なシステムに適用されるなら、純粋に物理的なシステムとの相互作用による崩壊は起こり得ない。だから、崩壊は物理的でないシステム、つまり、意識的な観測者の心との相互作用を通じて起こらなければならない。

 だが、ここには心身の二元論が想定されている。これは哲学で問題があるとされる立場で、測定問題をシュレーディンガーの猫を使って考える際に避けようとしてきた立場である。ウィグナーの解答は意識と物理的なものからなる心身二元論を前提にしている。
*J. Brown, Von Neumann and the Anti-Realist, Erkenntnis, 23 (1985), pp. 149-59.

 既にコペンハーゲン解釈に言及したが、ここではボーアがどのように測定問題を解決しようとしたか見てみよう。ボーアは二種類の物理システムの間を区別することから始める。

I. マクロなシステム:このシステムは崩壊の仮定に合うように時間発展する。
II. 純粋にミクロなシステム:マクロな部分をもっていないシステムで、いつもシュレーディンガー方程式にしたがって時間発展する。

 マクロな対象は古典的な用語で記述されなければならない。そして、マクロな対象に対する関係によってだけミクロな対象の性質を確定することができる。その結果、ボーアはミクロな対象がマクロな対象を使って観測されるとき崩壊が起こると主張する。だが、ここにも問題がある。量子力学の理論形式のどこにもマクロ-ミクロの区別を正当化するものがないことである。
*C. Hooker, The Nature of Quantum Mechanical Reality in R. G. Colodny (ed.), Paradigms and Paradoxes, University of Pittsburg Press, 1972.