電磁場の発見と相対性原理の危機

 ニュートン(Isaac Newton,1643-1727)がその著書『自然哲学の数学的諸原理(Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica)』のはじめに公理として掲げた運動の3 法則は古典力学の中心にある。

1. 慣性の法則: ある物体に他から何の力も働いていないとすると、この物体は止まっているか等速直線運動をする。
2. 運動方程式: 物体の運動の変化(速度の変化率、つまり加速度)は、力に比例 し質量に反比例する。
3. 作用反作用の法則: 二つの物体の及ぼしあう力は大きさが相等しく逆向きである。つまり物体Aが物体Bに力 を及ぼすとき、物体Aは物体Bから同じ大きさの力を受ける。

 この3 法則を活用し、あらゆる物体のあいだに働く万有引力を仮定することによって、天体の運動をはじめとするあらゆる力学現象が説明できそうに思われた。ある時刻の天体の位置と速度が決まれば、その後の時刻の速度と位置も決まってしまう。ラプラス(Pierre-Simon Laplace,1749-1827)はこの事態を「もしある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり,その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。」(『確率の解析的理論』1812 年)と述べた。この「知性」が「ラプラスの悪魔」である。つまり、未来は原理的に予言可能である。
 実験ではニュートン力学的な見方と矛盾するようなことは何もなかった。力学によって星の運行を計算できるようにし、天体間に働いていると考えられた万有引力は、何もない空間を飛び越えて遠く離れた物体のあいだに瞬時に働く作用(遠隔作用)と考えられていた。だからこそ、ある瞬間のお互いの位置だけによってその間に働く力が決まってしまうのである。
 デカルトは1633年『世界論(Le Monde)』で、宇宙は物質が満ちていて、それが作用を遠方まで伝えると考えた。これは近接作用である。ニュートン力学の圧倒的な成功によって、この考えはあまり注目されなくなっていたが、19世紀になると電気や磁気の研究が進み、「場」という考えが復活してきた。電気的、磁気的な作用を伝える電場や磁場の考えがファラデー(Michael Faraday,1791-1867)らによって導入され、遠隔作用の考えに疑問が生じてきた。マクスウェルは電場と磁場の関係を数学的に表現し、電磁場の振動が波として秒速30 万キロで空間を伝わることを理論的に導いた。そしてこの速さが光りの速さと同じであったことから、電磁波と光は同じものだと主張した。これは、光と同じ速さで伝わる電磁場の振動、電磁波があるということである。火花放電によって急激に変化する強い電場を作ると、それが遠くまで伝わることがヘルツによって発見され、予言は検証された。しかし、作用が有限の速さで空間を伝わるとすると、重大な問題が生じることになる。
 電磁気学は不思議なやり方で相対性原理を満たしている。二人の観測者がお互いに等速直線運動をしていて、一人(A)は磁石を、もう一人(B)は電圧計をつけた導線を持っているとしよう。Aからみると磁石の作る磁場は時間変化しないで、その中をBの持つ導線が運動している。導線の中の電子は磁場に対して運動しているので、ローレンツ力と呼ばれる磁場と運動方向の両方に垂直な方向への力を受ける。この力を式で表すと,電子の電荷を−e、速度をv、磁束密度をBとして、f = −ev × B となる。電圧計にはこれが起電力として観測される。他方、Bから見ると導線は止まっているが、磁石が動いているので磁場が変化し電磁誘導によって電場が現れる。この電場が電子に働く起電力となる。現象の説明は違うが、結果的に生じる起電力はどちらから見ても同じであり、AもBも同等の権利を持って、自分が静止して相手が運動していると主張できるのである。
 しかし、電磁波が「何か」を伝わるのであれば、AもBも同等の権利を持つという主張が崩れてしまいそうである。音は空気の振動として空気中を伝わり、音速は約340m/s 。したがって、音の伝わってくる方向に進めば、音の観測者に対する相対速度は速くなり、音と同じ方向に進めば遅くなる(ドップラー効果)。音の速さを測れば、空気に対する自分の速度がわかる。同じようにして、光の速さを測れば、光を伝えている「何か」に対する速度がわかるはずである。つまり、光の速度が秒速30万キロ(299742958m/s)になる座標系が静止系ということになる。今までガリレイの相対性原理によって対等と思っていた、互いに等速直線運動をする座標系の中から、ただひとつの絶対静止系が選ばれることになるはずである。