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感性のふくらみ:白居易と歌麿の「雪月花」

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 「雪月花」とは何かと尋ねられれば、「えちごトキめき鉄道の列車の愛称」と答えるのが上越の人たちの今の常。その名称は、一般公募され、審査の結果、「えちごトキめきリゾート雪月花」に決定したとのこと。そして、その説明によれば「夜桜の春、山と海を体感できる夏、紅葉と収穫の秋、雪景色の冬など四季明瞭な沿線の折々の景色を愛で地元の旬の食材が堪能できる極上リゾート車両をイメージした名称」と褒め殺しの文句の羅列で、意味不明。とはいえ、「雪月花」はなかなかの名称で、乗ってみたくなるのは必定。

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 「雪月花(せつげつか、せつげっか)」は、「長恨歌」などで日本でも有名な白居易(白楽天)の詩「寄殷協律」の一句「雪月花時最憶君(雪月花の時、君を最も憶ふ)」の一部。白居易は江南にいたときの部下殷協律に長安からこの詩を贈った。この詩の「雪月花の時」は、四季折々を指す。そうした四季折々に、遠く江南にいる殷協律を憶うと詠っている。日本語の初出は『万葉集』巻18に残る大伴家持の歌。「宴席詠雪月梅花歌一首」と題して「雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛しき子もがも」(4134)の歌がある。明るい月夜に、雪と花をあわせて和歌の題材としたもので、この取り合わせは『枕草子』の中に村上天皇の挿話として登場している。

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(深川の雪)

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(品川の雪)

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(吉原の花)

 このような能書きはそれとして、私が「雪月花」で想起するのは喜多川歌麿の「雪月花」三部作。喜多川歌麿は美人浮世絵の巨匠として有名だが、彼の肉筆画に「深川の雪」、「品川の月」、「吉原の花」があり、それが歌麿の「雪月花」。特に、「深川の雪」は長い間行方不明になっていたのが近年見つかり、大いに話題になった。
 えちごトキめき鉄道の「雪月花」を白居易歌麿の「雪月花」に殊更関連づける必要などないのだが、白居易喜多川歌麿がえちごを走るのも一興ではないか。ただうまいものを食い、飲み、車窓の景色を愛でるだけでは芸がない。えちごの「雪月花」で風景だけでなく、文学も芸術も存分に楽しむ方がよいに決まっている。