地球温暖化のもたらすもの

 二酸化炭素の累積排出量とそれに対する平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある、というのが現在の見解。つまり、世界の平均気温の上昇量はCO2累積排出量の関数として予測できると考えられている。現在の国際的な目標は、産業革命以前と比べて、気温上昇を2度未満に抑えることである。
 気候変動の特徴は、二酸化炭素の排出がなくなっても、何世紀にもわたって持続する点にある。これは、過去、現在、そして未来の二酸化炭素の排出によって、大規模で数世紀にわたる気候変動が避けられないことを意味している。排出を全く止めても、数世紀以上にわたって元には戻らないのである。産業革命以来、人間の活動によって大気中のCO2が急増し、CO2の循環バランスが崩れてしまったのである。 排出された二酸化炭素の約15~40%は、1000年以上大気中に残ったままになる。
 さらに、気温上昇による「正のフィードバック」といわれる現象がある。気温上昇が、更なる気温上昇の原因を引き起こすのである。その例が北極海の氷。このまま北極海の海氷が融けていくと、太陽の光を反射する力が弱まる。海面は氷面より反射率が低いため太陽の熱を吸収して、ますます「温暖化」が進む。また、シベリアやアラスカの永久凍土が気温上昇によって融け始めている。そのため、強力な温室効果ガスであるメタンガスが発生し、さらに「温暖化」が進む。これが、気候変動の「正のフィードバック」と呼ばれる悪循環現象である。近年、海氷の融け方が加速しているのも、このフィードバックのためだと言われている。
 「温暖化」が、「異常気象」に及ぼす影響を考えてみよう。高温・大雨・豪雪・乾燥などの「異常気象」は、世界各地で起きる現象。数十年に一回程度起きることは、自然そのものの「揺らぎ」で、驚くべきことではない。だが、温暖化によって、異常気象が起きる頻度と程度が変調をきたしている。つまり、温暖化によって、異常気象の頻度が高まり、程度が激しくなっているのである。近年頻発している「異常気象」は「極端現象」と呼ばれている。
 極端現象について次のような指摘ができる。陸地のほとんどで極端な高温がより頻繁になり、極端な低温が減少している。熱波の頻度が増加し、それがより長く続くことが増えている。また、湿潤地域と乾燥地域、湿潤な季節と乾燥した季節との間での降水量の差が増加している。 さらに、海洋の変化については、1海水温の上昇、2海洋の酸性化、3海面水位の上昇が挙げられる。海洋の温暖化は、気候システムに蓄積されたエネルギーの増加によるが、この40年間で地球に蓄積されたエネルギーの90%以上が海に蓄積されたものである。海に蓄積されたエネルギーは、CO2の排出がゼロになっても、その後も気温を上昇させていく。海水温度の上昇は大気中の水蒸気を増して降水量を増やし、台風の巨大化を引き起こしている。
 海水温度の上昇が気候の変動に及ぼす影響はこれだけではない。21世紀の間、世界全体で海洋の水温は上昇を続ける。熱は海面から海洋深層に広がり、海洋循環に影響を与える。 地球の海は、絶えず循環しながら地球の気候に影響を与えている。海洋循環には2種類あり、一つは「風成循環」。風によって起きる循環である。黒潮親潮などがそれに当たる。
もう一つが、「深層循環(熱塩循環)」。海水は温度が低いほど、また塩分が多いほど重くなり、表層から底層に沈み込んでいく。海洋の深層循環は、こうした海水の水温と塩分濃度の差によって生じる現象。底層に沈み込んだ海水は世界の海洋の底層を移動し、やがてゆっくりと上昇して再び表層に戻る。この循環には、およそ1000年かかる。
 次に、気候変動にどう対応すべきか考えてみよう。対応の際の両輪 が、「緩和」と「適応」である。「緩和」と「適応」とは、それぞれ、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行うこと、気候変動の影響による損害を防止・軽減したり、新しい気候条件を活かしていったりすることを意味している。
 まず適応。現実の、あるいは予測される気候及びその影響に対して、社会の損害を和らげ、回避し、または有益な機会を活かそうとする調整とその過程が適応。つまり、気候変動がもたらす影響に対し、その損害を防止したり、軽減したりするなどの対応が必要になってくるが、このような適切な対応が適応である。CO2 削減だけでなく、現実に起きている気候変動の脅威にも、地球的な規模で適応してゆくことが求められている。しかし、その対応の仕方は、その地域や分野によって異なる。気候変動の影響を科学的に把握して、その地域にある「脆弱性」(例えば、人口減少や高齢化によって地域社会だけでは対応できない、という傾向)も含めた根本的な対応が求められている。
   次に、自然生態系への影響を考えてみよう。地球「温暖化」は、動植物に深刻な影響を与え、多くの生き物たちが「絶滅」のリスクに直面する。陸上と淡水の生態系に関するリスクはどうか。温暖化ガスの排出が増える場合だけでなく、中程度の排出削減努力をした場合でも、その気候変動の速さのために、多くの動植物は21世紀中に、生息に適した気候に適応してゆくことができなくなると予想できる。 環境省は「地球温暖化『日本への影響』」を発表している。その中から代表的な樹木ハイマツとブナを取り上げてみよう。ハイマツは、高山帯にの針葉樹で、気温や強風等のため、地面に這うように生える。ブナは、冷温帯の代表的な落葉広葉樹で、白神山地は、世界有数のブナ林で知られている。ハイマツは「温暖化」から逃げ、高度を上げて生き延びようとする。すると、ハイマツより標高の高い地域に棲息する高山植物と競合する。氷河期以来、生き延びてきた高山植物は、ハイマツとの競合によって、「温暖化」によるリスクが一層深刻なものになる。さらに、ハイマツの後退は、そこに棲む動物にも影響を与える。特に、大きな影響を被るのがライチョウ。今でも絶滅が危惧されているライチョウは、おもにハイマツの中に営巣している。ハイマツは間違いなく、21世紀末には絶滅に近い状態になる。だから、21世紀には、高山植物のお花畑もライチョウも、姿を消してしまう可能性が高いのである。
 もう一つはブナ。最悪のシナリオでは、現在の約4分の1に減少すると予測されている。 「4分の1だから、ハイマツよりはましな気がするかも知れない。しかし、生育可能な地域は現在の4分の1になっても、実際にブナが生育する地域は、もっと少ない。ブナは保水力が高く、大型動物の棲みかとしても貴重な環境。白神山地には、ツキノワグマだけでなく、ニホンカモシカクマゲライヌワシなどの絶滅危惧種が生息している。「温暖化」が進むと、今世紀中には、こうした動物も絶滅に追いやられる可能性がある。
 気候変動には、温室効果ガスを削減するだけでなく、「適応」という戦略が必要だと述べた。今起きている気候変動の影響と、これから起こりうる影響に対して、自然や人間社会の在り方を調整してゆく必要がある。では、「温暖化」という気候変動を知ることは、地球の歴史とシステムを学び、知ることである。例えば、温暖化を知ることは、何万年も前の地球の気候や、海洋の深層潮流などを学ぶことである。また、温暖化と異常気象の関連を知るには、異常気象を起こす地球システムを知らなければならない。例えば、高潮。それはどんな要因で引き起こされる現象なのか。それがわからないと、温暖化によって高潮が激しくなることが理解できない。さらに、温暖化と自然生態系の関係を知るには、自然界の動植物や自然生態系について学ばなければならない。例えば、ウミガメ。ウミガメが雄になるか、雌になるかは、卵が孵化する時の砂浜の温度によって決まる。
(ここに述べられている内容は『気候変動に関する政府間パネルIPCC)第5次評価報告書(AR5)』に基づく。)