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ライチョウと温暖化

 2015年6月、特別天然記念物「ニホンライチョウ」の卵が長野・岐阜県境の乗鞍岳から上野動物園富山市ファミリーパークに運ばれ、「ライチョウ保護増殖事業計画」に基づく人工孵化が初めて実現した。本州中部の高山帯に棲むライチョウは絶滅の危険性が高く、その要因の一つが地球温暖化による営巣環境や高山植生の変化である。寒冷で厳しい自然環境下にある高山生態系は温暖化に対し脆弱で、その影響が懸念されている。
 ライチョウの棲む山々では、標高が上がるにつれて針葉樹が多くみられる亜高山帯となる。亜高山帯の上限付近には森林限界があり、さらに登ると、背の低いハイマツ帯、草地や岩場となる。ライチョウは高山帯から亜高山帯の間で季節ごとに採餌や営巣に適した場所へと住まいを移す。雪の季節になると厳しい寒さの高山帯を避けて山を下り、亜高山帯付近で越冬する。夜は掘った雪穴で眠り、昼も天敵から身を守るため雪穴にいる。春の雪解けが始まると、雄は高い岩場へと移動してなわばり争いを行う。雌はハイマツの中に巣を作って6月頃に産卵。雛は雌に育てられ、初雪の頃には親と同じくらいの大きさまで成長する。ライチョウは羽毛の衣替えをする。山が雪に覆われる冬は雪と同じ白い冬羽、夏の繁殖期には雄が黒っぽくメスは茶褐色の岩や高山植物の間で目立たない夏羽、そして秋には周囲の紅葉に合わせて雌雄とも黒褐色の秋羽になる。換羽は温度を調節する役割に加え、季節ごとの生息域の環境に合わせて猛禽類などの天敵からの攻撃を避ける役割を持っている。

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 ライチョウは草食で、亜高山帯、風衝地、雪田、ハイマツ帯でその季節に生育する植物の芽、花、葉、実などを餌としている。冬の間は雪の上に出たダケカンバなどの冬芽を食べ、春には風衝地に現れたガンコウラン、コケモモなどを食べる。雛は雪解けを待って顔を出すクロマメノキ、ミヤマキンバイなど雪田植物の柔らかい芽を生まれてすぐについばみ始める。夏の後半からは果実を好み、秋にはハイマツの実も食べる。
 温暖化は高山の生態系、そしてライチョウの生活にどのような影響をあたえるのか。高い山では標高が上がるにつれて気温がある割合で低下し、中緯度の平均的な大気の状態では100m上がるごとに約0.65°C低くなる。温暖化により平均気温が1°C上昇すると、これまでと同じ気温の場所は標高が約150m高い位置に移動すると想定できる。そこで、高山や亜高山の動植物は生育に適した場所を求めてより標高の高い所へ移動すると考えられる。真夏にライチョウが雪渓で涼んでいるようみえることがあるが、ライチョウがどの程度の高温ストレスを受けているのかは詳しくわかっていない。青森県八甲田山では亜高山帯針葉樹林のオオシラビソが低標高で減少し、高標高で増加して、高い方向への移動が見られている。だが、より標高が高い場所で生育している植物が移動する場合、岩場付近には植物が根付く土壌が少ない上、標高の低い山ではそれ以上標高の高い場所がほとんどないという場合もある。そのため、森林限界の上昇はライチョウの営巣に適したハイマツ帯や餌となる高山植物群落の面積の縮小につながることになる。
 さらに、温暖化による積雪量の減少や融雪期間の短縮は雪田や高層湿原の植生を変化させる。積雪量の減少は雪による断熱効果を低下させ、高山植物の凍害のリスクも増すと考えられている。また、温度環境の変化に対する応答は種によって異なるため、花と昆虫の共生関係といった生物間の相互作用に問題が生じる。ライチョウの場合、雛が孵ったとき餌となる若芽の時期が過ぎていたり、換羽と積雪の時期にずれが生じ、羽が保護色の機能を果たさないといった状況が起こり得る。
 妙高戸隠連山国立公園内の火打山に棲むライチョウの個体群はとりわけ小さく、温暖化には脆弱である。高山の積雪域の変化、ハイマツや高山植物の分布域の変化などを、定点カメラも利用して継続的にモニタリングをしていくことが求められている。