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日の出か日の入りか?

 正月には朝日の画像をよく見る。今朝もよく晴れ、朝日が眩しい。その眩しい朝日が朝日であることを疑う理由など私にはない。それが朝日だという理由は山ほどあり、どの証拠も太陽の知覚像が朝日だと示す情報になっている。自分が実際に見ていなくても、正月は朝日の出番で、よほどのことがない限り、夕日はお呼びではないから、画像の内容から朝日なのか夕日なのかといった問いは出てこない。正月に撮られた写真という情報があれば、まずは朝日だと判断できる。だが、説明や文脈が一切なく、たまたま一枚の写真だけが手許にあるとなると、その写真の太陽が日の出なのか日の入りなのかわからなくなる。
 太陽の画像以外に何も映っていない、何の情報もない場合、写真だけからは朝日と夕日の区別がつかない。それが本当かどうか色々調べてみても、区別できないというのが答えである。さらに、同じ風景で午前か午後かの区別、午前10時と午前11時の区別、午前10時1分と午前10時2分の区別と並べると、その区別は次第に困難になり、遂には区別できなくなると誰もが推察するだろう。

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 ここで二枚の写真を見てみよう。すると、いずれが朝日でいずれが夕日かと尋ねてみたくなるのではないか。実際の生活の中ではいずれなのかの判断が必要な場合に限られるとはいえ、そのような場合は文脈的な情報に頼ることによって判断されている。決定できない場合は必死に決定するために必要な情報を集める。厄介なのはその問いが特定の目的のためでなく、いわば哲学的な問いの場合である。「朝日と夕日は違うにも関わらず、それらの画像だけからは区別ができない。それはどうしてなのか。」という問いになると、その問いは一見深淵な哲学問題であるかのように思えてくる。実際は、単に情報不足ゆえに決定できないに過ぎないのだが…とはいえ、この問いを考えることは、知覚像とそれについての知識がどのように異なり、二つが普通は協働して判断を形成していることが納得できるようになる。知覚像という表現も気をつけなければならないが、像と像の中の対象についての知識の違いは二枚の写真に写る対象の区別ができるか否かを左右している。哲学談義はこのくらいにして、視点を変えて朝日と夕日の違いの決定の仕方を美術作品を使って調べてみよう。
 朝日と夕日は違うが、朝日の印象と夕日の印象は同じでも一向に構わない。印象というより知覚像といった方が直接的で、朝日の知覚像を記録した写真と夕日の知覚像を記録した写真から、朝日か夕日かの判断はできないということである。それを裏付ける最初の例が私自身が撮った(上記の)画像。二番目の例はモネの「印象、日の出」、「セーヌの日没」、ゴッホの「エトルタの日没」。これらの絵を知らない人は日の出か日の入りか自らの眼で確かめてほしい。知覚像だけで日の出と日の入りの違いを判断をすることはまず不可能である。これらの絵を知っている人には次の問いを考えてみてほしい。その問いは「3枚の絵のタイトルが正しいことをそれぞれの絵から見つけることができるか」である。

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 さて、絵について各自の確認の後で、モネの「印象、日の出」についてのエピソードを紹介しておこう。
 モネの「印象、日の出(Impression, soleil levant)」は 1872年に描かれ、マルモッタン美術館(パリ)が所蔵している。印象派という名称の由来となったこの作品はモネが1874年の第一回印象派展に出典した作品。当初『日の出』のみの名称で出品されていたが、名称が短すぎると言われ、モネ自らが前部に「印象」と付け加えた。筆触分割(色彩分割とも呼ばれ、細く小さな筆勢によって絵具本来の質感を生かした描写技法)を用いて、ル・アヴール港を素描写生的に描いたものだが、当時の批評家ルイ・ルロワはル・シャリヴァリ誌に「印象?たしかに私もそう感じる。しかしこの絵には印象しかない。まだ描きかけの海景画(壁紙)の方がマシだ。」と嘲笑的な記事を寄稿したが、この記事によって出典した画家らは「印象派」と呼ばれるようになった。本風景の海面、船舶、船の漕ぎ手、煙、そして太陽などの構成要素は筆触分割によって、形状や質感の正確さは失っているものの、大気の揺らぎや、刻々と変化する海面とそこに反射する陽の光の移ろい、陽光による自然界での微妙な色彩の変化などが表現されている。
 左下に「Claude Monet.72」とサインされているが、1872年にモネが現地を訪れた記録がないことから、このサインは誤記と疑われ、1873年に描かれた作品とされてきた。また、1878年当時の競売カタログには「印象・日の入り」と記載されていることから、日の出ではなく日の入りを描いたとする説があった。所蔵しているモルモッタン美術館は、科学的な調査を行い、太陽の位置、潮位、天候などをもとに、「1872年11月13日7時35分頃」の風景を描いた可能性が高いと発表した。また、描かれた方角はモネが滞在した現地のホテルから南東と判明し、日の出であることが確定した。
 モネの絵に描かれたもの、描かれた状況、文脈についての情報から、その絵が朝日を描いたことが(実証的に)確認されたのである。だから、最初の2枚の写真もそこに写っているものについての情報、知識をもっていれば、簡単に朝日か夕日かの判断ができることになる。
(一枚目が朝日、二枚目が夕日というのが答えである。)