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Alternative facts

 この数日「Alternative facts」という言葉をよく聞く。その経緯は次のような説明でおよそわかるだろう。報道を正確に辿るには私の訳より、原文の方が適切だろう。

"Alternative facts" is a phrase used by Counselor to the President Kellyanne Conway during a Meet the Press interview, in which she defended White House Press Secretary Sean Spicer's false statements about the attendance at Donald Trump's inauguration as President of the United States. When pressed during the interview with Chuck Todd to explain why Spicer "utter[ed] a provable falsehood", Conway said "Don't be so overly dramatic about it, Chuck. You're saying it's a falsehood, and ... our press secretary, Sean Spicer, gave alternative facts to that." Todd responded by saying "Alternative facts are not facts. They are falsehoods." Conway responded that counting crowds of over a million people is not an exact science and that the statements made by Spicer could not be proven true or false.

 さて、次のような表現Alternative believes、Alternative opinions、Alternative truthsは偽ではなく、真である可能性が許されている。ある事実の否定は偽であり、存在しないものだが、信念、意見は確実に複数存在することが認められていて、異なる信念や意見は共存できる。だが、真理になると微妙で、複数の真理を認めない状況が考えられる。異なる宗教は異なる真理を説くが、特定の宗教の信者には真理は一つだけなのに対し、宗教学者は複数の真理の比較を行う。

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 「ある事実とその否定は両立しない」というのは古典論理を支える法則だから、ある事実のもう一つの事実は偽のことだというのはトリヴィアルということが記者側の議論の前提になっている。では、ある事実とその否定が両立する状況はないのか。そのような状況を許すのが量子力学多世界解釈(many-worlds interpretation)。コペンハーゲン解釈が認める観測の際の波束の収縮を認めず、普遍的な波動関数の客観的実在を主張するのが多世界解釈で、シュレーディンガーの猫が生きている世界と死んでいる世界の両方を認める。猫が生きている事実と猫が死んでいる事実が複数の世界で想定できることが多世界解釈では可能であり、それゆえ「ある事実とその否定は両立する」ことになる。
 ところで、多世界解釈を認めるなら、ToddさんとConwayさんは別の世界に住んでいることになり、二人は会話できないことになる。だが、二人は会話しており、同じ世界の住人であるから、多世界解釈は成り立たないことになる。