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定年間近い物理学者が酒を飲みながら愚痴った本心の幾つかと学生の反応

愚痴1
 過去の哲学者や物理学者が尊敬される理由は、彼らが誤っていたからである。その誤りから正しい答えが見つかった。それゆえ、彼らの誤りは正に尊敬に値する刺激なのだ、と彼は言う。アリストテレスガリレオも、デカルトニュートンもみな誤っていた。ガリレオアリストテレスの誤りを見つけ、なぜ間違っているか示した。ニュートンは先輩デカルトの間違いを正すことで『プリンキピア』を書くことができた。それゆえ、彼らの仕事が大切なのは彼らの仕事が間違いだったからだ。
愚痴2
 謎の解明、新技術の開発以外の研究、例えば科学の哲学や世界観を研究する理由は何か。現在アリストテレスニュートンの研究をするのは哲学史や物理学史の仕事で、それは歴史研究。過去の遺産の研究は尊重されるべきだが、科学知識の本性や科学の基礎に関する哲学研究は物理学への雑音でしかない。実際の研究成果の要約がすべてである。知識を基礎づけることなど不要なこと。
愚痴3
 哲学、倫理学、思想などでは今でも過去の哲学者や倫理学者、思想家の著作を注釈することが学史ではなく、正真正銘の知識追求だと考えられている場合が多い。哲学を研究していると言うと、ほぼ確実に「誰の哲学ですか」と尋ねられる。「誰の物理学を研究しているか」という問いが物理学では無意味である。知識とは公共的なもので、特定の誰かの私有財産ではない。
愚痴4
 文学や芸術にも過去の誤りだと断定できるものが相当ある。にもかかわらず、文学や芸術の作品は誤りというものはないと思われている。だが、封建制、奴隷制を称賛する作品が称賛されることはない。自然科学の知識が時間に比例して増えていくのに対し、哲学や文学が比例しないことが過去を顧みさせているのかも知れないが、過去の著作の注釈で誤りを見出し、そこから真理を見つけることはほぼ不可能。

学生の反応
 本音でも正しくない愚痴で、先生も歳には勝てないようだ。今の自分は就職先で技術者として仕事ができるかどうかが重要。教養は余裕が生まれてからで十分だが、アインシュタインは確かに物理学者であると同時に科学哲学者だった。アリストテレスの学説は間違っていても、大変に魅力的。歴史は結局物語、だから面白いのだ。偏見の強い愚痴だが、心に留め置いて構わない偏見だ。