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辰巳団地(都営辰巳一丁目アパート)

 辰巳団地に走り込むと時間が逆戻りして昭和の世界だと錯覚してしまう。タイムスリップのような体験など滅多にないのだが、辰巳団地を走ると、いつも同じ印象を味わうことになる。それが懐かしく、甘酸っぱいのは私の青春と重なるからである。東京に出てきたのが昭和41年。初めて東京に住み、すべてが目新しく、その当時見た街の風景が辰巳団地のそれと重なるのである。古めかしい団地の風景は私の青春の風景という訳である。それが私の錯覚体験の理由なのだと勝手に得心している。

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 団地の建物のほとんどは昭和42年から44年までにつくられ、100棟近く3000戸以上ある大団地。5階建ての中層住宅が見事に並ぶ。現在は新築の高層住宅が三棟増え、僅かながらでも建て替えが続いている。およそ50年の歴史をもつことになるが、時間が止まったかのような印象を与えるのは建物の修復や植栽の充実などがほとんどなかったためであろう。私の青春時代の東京の風景が残っているためか、私自身をその古い風景にはめ込みたくなる。はめ込まれた私は若返った私である。辰巳で自分が若いと錯覚することは、昔の自分を想起することの実にうまいやり方だと思っている。過去の自分を想起するとは過去に住んでいた環境に自分を置くことなのである(さらに、過去の友人、衣服、食べ物等、結局は過去のすべてが再現できれば完璧な想起と言うことになる)。

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 住人は工場、倉庫、港湾で働いていた人が多く、老人ばかりで子供は少ない。辰巳は運河に囲まれていて、隣の東雲とは橋でつながっている。運河を隔てた対岸にはタワーマンションが並び、CODAN Shinonomeという名前の団地もある。こちらは若い夫婦と子供たちで溢れている。東雲はまさに平成の風景で、昭和の辰巳とは好対照。モダンな東雲も昔は三菱製鋼東雲工場で、その跡地が現在の東雲団地群である。

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 東雲を走る私は現在の私。その私が辰巳橋を渡って辰巳1丁目に入ると、20歳台、30歳台の私になる。だからと言って走りが軽やかになることはないが、若返った気分で昭和の街並みを走ることになる。辰巳団地を走り抜けると、辰巳の森海浜公園、緑道公園が広がり、休日は親子連れがたくさん遊んでいる。その海浜公園の一角では東京オリンピックの水泳会場アクアティックスセンターの工事が始まっていて、こちらは未来の風景。
 だから、辰巳団地はその両側を現在と未来に囲まれた、生きた過去(=私の青春)なのである。