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ミネルバの梟

 梟が哲学と縁が深いのはヘーゲルに起因するようです。ヘーゲルの哲学観と私のそれは似ても似つかないものですが、権威に頼って自分を表現しようという下心があるのは確かだと白状しておきます。では、ヘーゲルと「ミネルバの梟」はどのような関わりがあるのでしょうか。

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ヘーゲル

 ミネルバは知恵の女神アテナのことで、ポリスであるアテネの守護神です。梟はアテネの聖鳥で、 「ミネルバの梟」は哲学や学問を象徴しています。ヘーゲルは「ミネルバの梟は黄昏とともに飛び始める」と述べ、次のように解説します。「哲学は世界についての思想であるため、現実の世界が完成したあとに、初めて登場する。現実が成熟した後に、それに対応して観念的なものが現われ、それをひとつの知的な王国としてまとめあげるのだから。」 哲学や学問は、現実の後におくれてやってきて、それらが確立するころには時代はもう終焉に近く、その哲学や学問はその時代を総括する役割しか果たしません。それゆえ、「ミネルバの梟」は日が暮れてからようやく飛び始めるというわけなのです。ミネルバの梟が黄昏に飛び始めたら、次の時代の幕が開く前兆と捉えることができます。では、ミネルバの梟が明け方に飛び始めたらどうなるでしょう。哲学や学問が現実をリードすることになり、ヘーゲルの考えとは異なることになります。

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 私はミネルバの梟に明け方に飛んでほしいのですが、そのためには梟の遺伝子を変えて、朝や昼にも活動できるようにしなければなりません。この話をさらに続けるのは次の機会に譲り、もう少しミネルバの梟の話を続けましょう。

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(女神アテナ)

 ローマでミネルバと呼ばれる女神はギリシャ神話の女神アテナのことですが、このアテナはその生い立ちからして強烈なのです。ギリシャ神話の神々は、親兄弟まで平気で殺し、権力闘争に明け暮れる中で生きていました。『神統記』によれば、天の神ウラノスの子クロノスは父を殺して権力を手に入れるのですが、ウラノスの呪いで生まれた子に殺されると予言されます。恐れたクロノスは生まれた子供をすべて飲み込んでしまいます。でも、ゼウス一人だけは生き延びます。そのゼウスもウラノスの呪いが自分にも降りかかることを恐れ、妊娠した妻メーティスを生きたまま飲み込んでしまうのです。ところが胎児はゼウスの頭の中で生き続け、ゼウスに激しい頭痛を起こします。ゼウスはプロメテウスに自分の頭を斧で割らせるのですが、その中から出てきたのがアテナです。アテナはゼウスが王権を奪われると恐れた男子でなく女子でした。
 甲冑で武装したアテナは、女性ながら戦いの神とされ、アクロポリスの頂にあるパルテノン神殿に梟と共に住んでいました。彼女はありとあらゆる邪悪なものから身を守るアイギスと呼ばれる魔法の楯を持っていました。この楯には目を合わせたものは全て石にしてしまう怪物メドゥーサの頭の部分がはめ込まれていて、誰もアテナに反抗するものはいませんでした。このアイギスは英語ではイージス(Aegis, Egis)で、あのイージス艦の由来です。ミネルバパルテノン神殿で飼っていた梟を今のイージス艦と同じ情報収集のために使っていました。スパイのギリシャ・ローマ版です。彼女はその日一日アテネの町で起こったことを聞き出すために、情報が得やすい夕方に特別に訓練した梟の諜報部員を町に派遣したのです。暗い所でも良く眼が見える鳥として、梟が選ばれたのです。
 さて、「ミネルバの梟は黄昏とともに飛び始める」はヘーゲルの『法の哲学』(Grundlienien der Phirosophie des Rechts) に出てくる有名な言葉です。ここでのミネルバの梟とは、彼女が正義=法(Das Recht)と考えるものを基準に梟に情報を集めさせてくることを意味しています。夕方になると人は様々な失敗を重ねながら、少し賢くなっています。その知恵をフクロウに集めさせるのが知恵の神でもあるミネルバの役目でした。