獣医学教育

  新制大学の獣医学教育(獣医学部と獣医学科)の修業年限は4年。獣医師国家試験の受験資格も「正規の大学における獣医学の課程を4年以上修学」。つまり、4年制の獣医学部・学科を卒業して獣医師になることができたのだが、獣医師法の改正に伴い、1978年以降に入学したものは「大学4年と大学院修士課程2年」の計6年修学が必要となった。このため1984年から「獣医学部・学科6年制」に移行した(2006年より薬剤師も6年制に移行)。

 国内での獣医系大学は現在、国立大学法人10、公立大学法人1、私立5の16大学である。獣医学部・学科を有する全大学を通してわずか1000人未満しか募集がないため、入学試験は大学間で難易度のばらつきが非常に少なく、国公立・私立を問わず全大学が一定して高いレベルに集まっている。

 日本は平穏な受験状況だが、アメリカの獣医学教育はどうなっているのか。アメリカでは、大学に獣医学科はない(これは医学部も同じ)。獣医になるには、まず大学に入学し、学士を取得する。次に、全米共通試験(GRE)を受け、学部の成績とともに、獣医学博士課程のある大学院へ応募。獣医大学院は4年間で、前半の2年は基礎科目が中心、後半の2年は実習が中心である。大学学部在学中に「獣医大学院へ入るための(理解に必要な)必須(Pre-requisite)科目」を履修していることが望ましく、生物学、生化学、有機化学無機化学、物理学、動物学などの科目が含まれている。そのため、獣医大学院を目指す大学生は、大学在学中に生物学を専攻する人が多い。獣医学大学院は一般にcollege of veterinary medicineと呼ばれている。

 最近はヨーロッパも含め、国際的な獣医師の評価基準の策定が模索されている。それを反映して、日本学術会議食料科学委員会獣医学分科会が2017年3月に提言を出している。それを要約すれば、次のような内容である。わが国の獣医学がアジアの中で指導的役割を果たすことが重要だが、そのためには国際的に通用する獣医師を育成する教育組織が必要である。さらに、医学だけでなく、日本をモデルとした獣医学教育基準・評価方式が広がれば、アジアの国々に対して大きく貢献でき、日本の食料安全保障にも貢献できる。だが、国公立の大学の幾つかでは、未だ学部としての教育体制すら取られていない。

 一方、日本獣医師会は会長名で今回の問題に対して、次のような表明を行った。2017年6月22日だから、つい最近である。全国的な獣医師総数は不足しておらず、農水省文科省の協力で国際水準達成に向けた教育改革に尽力してきた。獣医学教育の改善について特区制度に基づく対応は馴染まない。優先すべき課題は、地域・職域対策を含む獣医療の提供体制の整備・充実、獣医学教育課程の改善にあり、このためにも獣医学入学定員の抑制策は維持する必要がある。獣医学部の新設は閣議決定された4 条件を満たし、文部科学省に設置された大学設置・学校法人審議会での厳正なる審査が必要である。そして、わが国の獣医師養成に関する経緯と課題が挙げられている。獣医師の国際的な評価基準の策定には触れられていない。

 獣医学、獣医師の国際レベルへの引き上げ提言と、岩盤規制が必要という表明は実に好対照だが、それらを念頭に安倍首相の講演を考えてみてほしい。彼は6月24日の講演で、加計学園が国家戦略特区による獣医学部開設を計画する今治市以外にも、同学部新設を認める考えを明らかにした。「規制改革推進の立場から、速やかに全国展開を目指す。地域に関係なく2校でも3校でも意欲あるところは新設を認める」と述べ、「1校に限定して特区を認めた中途半端な妥協が、結果として国民的な疑念を招く一因となった」と弁明した。

 国立大学の獣医学部の新設より私立大学の獣医学部新設の方が実現が容易なのは明らかである。その際、必要なのは福澤諭吉の「痩せ我慢の記」の精神である。政治主導で規制を一部壊すのだから、首相や内閣府の意向が入って当然なのだが、堂々と意向を実現するにはお友達のことを優先するのではなく、他を優先する痩せ我慢が必要だったのではないか。

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