秋のバラ

 日本にも野生のバラが16種もあるらしい。だが、菊ではなく、バラとなると日本的な花ではないことになっていた。それを大きく変えたのは「バラが咲いた」という浜口庫之助がつくったフォークソングだったと思う。それをマイク真木が歌い、バラは日本中に広がった。むろん、私たちはその歌の前にゲーテの詩やシューベルトの歌曲でバラを知っていたのだが。
 かつて私は「Four Roses」というバーボンが好きだった。『薔薇の名前』はウンベルト・エーコが1980年に発表した小説。14世紀初頭の北イタリアのカトリック修道院で起こる怪事件を二人の修道士が解き明かす物語で、とても衒学的である。
 エーコの小説の背景にあるのが普遍論争。普遍論争は「実在するのは何か」という哲学の問題。簡単には、事物について、その類観念、つまり類の形相が実在しているというのが「実念論」の立場。これに対し、オッカムのウィリアムなど「唯名論」の立場では、実在するのは個々の事物であって、形相は名前に過ぎない。
 これらの関係を名辞「薔薇」を例にすれば、薔薇のクラスが実在するのか、またはそのクラスは単に「名前」に過ぎず、実在するのは個々の薔薇であるのか、ということになる。オッカムは後者の立場である。
 バラがこれほどまでに私たちを惹きつける理由は単純明快で、バラが美しいから。バラはその美しさによって、私たちに謎を抱かせ、纏わりつく。バラは自然のエッセンスだけでなく、文化のエッセンスを具現している。

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